小麦色いちご

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黒歴史 恋するいちごさん からの続き

小机いちご

ある日、一枚の絵から目が離せなくなっていた。

何だろ?この絵から伝わってくる得たいの知れない魅力。ずっと見ていても飽きない、何重にも塗りこめられたような深みのある表情。じっと見ていると、絵が語りかけてくるんだ。

「アンタこういう絵が好きだよね?」

でも、変な絵なんだ。例えば、指が6本あったりする。よく見ると、脇とかから3本目の手が生えていたりする。髪の毛がありえないところから生えていたりして、なんか色々物理的におかしい。でもこの絵はなんて魅力的なんだろう?なんでこんなに魅了されて引き込まれるんだろう?

しかも、その絵は私が苦手とするスクールセーターを着た女の子の絵だった。

柔らかそうな布がくしゅくしゅとねじれていく質感がとても芸術的だった。

省略した部分は、メンドクサイから描かなかったというより、それが良いと思うからあえて省略したという感じがした。この時、生まれて初めて、スクールセーターって可愛いなと思ったんだ。

同じような絵が、少しずつ表情や角度、陰や色味を変えて何十枚も出てきた。CGで描いたのかも?と思ったんだけど、同じ人物を描いたと思われるのにどの絵もポーズや表情が違う。

これだけ絵が並んでいたらどんなに優秀なイラストレーターでもコピペ感が出てくるはずなのに、全部わざと違うように描いていて、これは一体どういった事か?と。

その絵はAIが描いたものだった。

2022年の夏にStable Diffusionとかいうものがオープンソースで公開されたらしい。沢山の画像を分析したAIが画像生成する技術的なものなんだとか。そこから更にNovelAIとかWaifu-Diffusionとか集めた画像の嗜好によって違う色々なAIが派生したらしくて、そういうAIで絵を描くやつを使って世界中の人がAIに絵を作らせているらしい。

AIで作るイラストは2023年に劇的に進化していったよ。

AI生成で画像を作る感覚は、イラストを描くというより、写真撮影に近いという。

イラストは考えて考えて練習してイメージして、そして渾身の一枚を描きあげるまで時間をかける。写真撮影の場合は少しずつ変えて何百枚も撮影した後、気に入った一枚を選ぶ。

絵を描くには時間がかかるから、1人のイラストレーターが苦手とするものは、だいたい他の人も苦手だったりして、人類全体が苦手なものだったりするから、自分が求めている漠然としたものって、多分人類には描けないものなんだと思う。

AIは沢山の絵や写真を分析してから、最も魅力のある渾身の一枚を選ぶための候補として、何百枚という選択肢を投げつけてくる。その中の好きなものだけを選定するのが人間の仕事で、そこからまたAIは更に魅力のある絵を考えて、また何百枚という選択肢を生み出してくる。そしてまた選ぶ。

AIは静止画をまるで実写動画のように出力する。人間が描けないような微妙なところとか苦手な角度を何百パターンも丁寧に描き直し続け、人間が期待しているものを探して絵の鍛錬を続ける。

そして、ついにそのAIが放った一枚の絵が、この私の心をとらえた。

これは触れてはいけないと思われていた部分だったのかもしれない。人間が何年もかけて詰みあげていく鍛錬をAIは数分でこなす。それが無料のオープンソースで世界中にばらまかれ、世界中の人が面白がってそれを使う。

でも、今の時点では絵の先生としてAIは活用するけれども、実際にAIで描いたものはそのまま使わない。AI生成した画像は、その分析元になった絵が存在していて、その著作権をどう守るのかが議論中で、世間を騒がせたトレパク問題の犯人が人間からAIに変わっただけだったりする。だからそのまま使ってその絵を採用して良いのかどうか悩む。

それに、まだ100%自分が求める絵を作れる基準にまで達していなくて、あくまでもAIが考えた絵が良く出来ているというもので、100%思い通りの出力結果が期待できるわけじゃない。

だから結局、うちらも自分の手で描くんだけど、大事なのは「スクールセーター可愛いな頑張って描くぞ」とか「ピカピカのローファーカッコいいなもっと描きたいぞ」と思う心が生まれた事なんだよね。

小机いちご

突然だけどさ、私はおシャレでカッコ良いのだよ。

例えそれがまわりから見て「不思議ちゃん気どりで勘違いした痛い子」だと思われていてもさ。本人にとってはそれが最高のお洒落で格好良いつもりなのだよ。

まわりの奴らが寄って来ないのは、孤高な私があまりにも格好良いから怖気付いてビビッちゃってんだろ。とか思っちゃってるわけよ。

私のファッションにはそういった意思表示が埋め込まれていて、高いヒールやゴツいレザーに、中二病抜群なギラギラした装飾に、攻めたスカート丈に、自分の心のトゲを埋め込んでいるわけ。これは武器であり鎧なわけさ。

でも、もう洋服が描けなくなった。

学校指定のブレザーとか、学校指定のローファーとか、学校指定までの長さのスカートとか身に着けていると、私が主張したかった個性がぜーんぶ潰されちゃって、更にこのオカッパ頭という扱い難い最終兵器が、オンザマユゲの根暗ちゃんというイメージを確かなものにしてしまったりするわけだ。

オトナが選ぶ自由な戦闘服から、みんな同じを強いられる学生になると、改めて、いかにオトナが自由だったか思い知らされるわ。

そこで私は、まずこの雛形通りな高校生の姿から脱したいと思ったわけよ。大人である事をもっと主張したいんだよね。こう見えて24歳だからね。20歳未満のヒヨッコ達におまえらとは違うんだぞとアピールしたいわけよ。

この感情を実際のティーンエイジャーらしく言うと「はやく大人になりたい」という言葉になるのかなあ?まあティーンエイジャーってのは、特権が多いお年頃でさ。はっきり言ってこれを早いうちに捨てるのはもったいないと思うんだ。子どもとして扱われるメリットは凄いんだけどな。時間さえ経てば誰でも自動的に大人になるわけだしね。

でも、子どもとして扱われる時に感じる閉塞感というか息苦しさというのもあるのはわかる。多分、16歳の時の私だったらわからなかったと思う。

早く大人になりたいティーンエイジャーは、大人っぽくあろうと努力すると思うんだ。そこはやっぱり18歳くらいの思考回路だから、知識をじっくり確実に深める事が大人への準備である事なんだと実感するのは難しい。だからまずは見た目で大人っぽくあろうとするんだろうな。

大人を真似して化粧したり、髪を伸ばしたりして、そんでもって、そういう次元で他の人とはこれが違うんだとアピールしたくなるもんなんだろうな。
うーん。それがつまり?ギャルと呼ばれる人達なのかな?

彼女達は自分達の置かれている状況が息苦しくて、早く大人になれば自由になれるんじゃないか?この退屈な学生生活から救い出されると思っているのかな?

そんなわけで、小机いちごがギャルを見習って、タンニングして日焼けしてみたらさ・・・

なんと、すっげえ大人っぽくなっちゃったんだ。

んでもって、ギャルはブレザーなんて着ない。オーバーサイズのスクールセーターを着こなすんだよ。そしてギャルらしくロリポップも常時装備さ。

なんでギャルが黒くなるのかよくわかった。黒くなったほうがカッコイイんだわ。なんでか知らないけど。白いとすごく大人の言いなりになってる感じがしちゃって、黒ければ黒いほど自分らしくなるような不思議な感じがするんだわ。とにかく黒い小机、超かわいくね?マジ頼りになるお姉さん感出まくってるから。

これまで、絶望的になかった色気が、黒くなる事でムンムンに出てきた。

でも、小机いちごがギャルになると、小机いちごでは無くなっちゃうんだよな。

結局、褐色は新しい人に引き継いでもらう事にしました。
3人の中で一番褐色が似合う子にね。

次の黒歴史は JKいちご へ続く